孝史へー山本ゆき
友人が私に言いました。
「胸に病を抱える人は、胸に悲しみを長く抱えてきた人だ」と。
悲しみでぽっかり空いた胸の空洞に、がんが宿ったということなのでしょうか。孝史の胸の真ん中の胸腺に宿ったがんは、7歳でトラックに命を奪われた兄の無念さ、交通遺児母子家庭の支援活動やあしなが活動で出会った多くの子どもたちと母親の悲しみと苦悩、国会内で先頭に立って真相解明に取り組んだ、薬害エイズの被害者の悔しさの塊なのでしょうか。
国に裏切られ、医師に人間扱いされなかった薬害エイズ事件の被害者たちの苦しみ、絶望を思い、絶対に許せないと膨大な資料を読み込んでいましたね。
そして、まだ「未公開ファイル」があることや、加熱製剤の発売後も非加熱製剤が販売されていたことをも突き止めました。
この薬害エイズから孝史の国会での「いのちの政策」が始まりましたね。
13年間の国会活動で取り組んだのは、年金、医療、介護の社会保障制度をメインに、臓器移植、自殺対策、難病対策、被爆者支援、障がい者支援、中国残留孤児支援、ホームレス対策、交通事故問題、そしてがん対策などいのちを守る政策でした。
一昨年の12月にがんが見つかってから一年半、抗がん剤治療を受けながら、時には健康な時以上に、国会で仕事をしていましたね。「命を削る」とは、このことかと何度はらはらしたことでしょう。
孝史の訴えが実って、がん対策基本法も制定され、国のがん対策も少しずつ前進していくように思えます。
国が、がん対策に向けて動き始めたのはいいのですが、自分の身体をあまり顧みなかった孝史にとうとう「ドクターストップ」がかかりました。
5月下旬の治療日。体力消耗が激しく、主治医に「危機的状況」と言われ、もう抗がん剤の治療はできないと通告されました。それを機に、やっとあなたは自分の身体を思いやり、自分のいのちを見つめるようになりましたね。
それでも、6月12日に、厚生労働委員会で質問に立ちました。疼痛緩和のための医療用麻薬メサドンの早期承認を求め、厚労省から積極的に取り組むとの回答を得ました。
今、使われているモルヒネなどの十分の一の値段で、海外では広く使われている薬です。これが承認されたら、痛み止め薬の選択肢が増えて、喜ぶ患者さんがたくさんおられるでしょう。痛みさえ、コントロールできたら、普通の生活が送れるがん患者さんはたくさんいます。
「年金の山本」の存在を示した、年金記録消失問題に関する質問では、「わかりやすく聞き入ってしまった」と、委員会室で写真を撮っていた記者さん。その話を聞いて、「そういうことばの一つひとつが励ましになるよ」との思いに駆り立てられていたような日々。
自分の人生を完結させようとしていたようにも思えます。
孝史の人生はまだまだ進行形です。いのちのバトンを持ったままです。渡す相手もまだ見つかっていません。ちょっと動くと心臓がバグバグ鼓動して苦しそうだけど、酸素吸入だってあるし、抗がん剤の副作用にも悩まされるけれど、孝史は元気です。
孝史の願いー「僕は、治らないと医者から言われたけれど、治りたい。生きたい。生きて仕事がしたい。標準治療のあとは緩和ケアーだけの日本のがん医療を変えていきたい」
孝史とえにし(縁)を結んだ人たちが、孝史の想いに共感し活動してくれています。あなたのメッセージを全国の人たちに伝える手伝いをしてくれています。
もう、一人で頑張ろうとしないでください。私にも長く伴走させてくださいね。
2007年6月15日記
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