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(Thu)18:25

取材を受けていた会員さんが本日、朝刊に掲載された:毎日新聞

がん社会はどこへ:第2部 働き続けたい/2
 追い込まれた「リタイア」

毎日新聞 2015年05月21日 東京朝刊

調子の良い日は家事をし、散歩をするという久雄さん=埼玉県で
調子の良い日は家事をし、散歩をするという久雄さん=埼玉県で

 「ずっと続くと思っていた道がぷっつり途切れ、途方に暮れています」。栃木県に住む陽子さん(53)=仮名=は約3年前、がんが分かり、ようやく就いた図書館司書の正規職員を半年で辞めざるを得なかった。その失意をいまも引きずっている。

 無類の本好き。図書館司書になるため古里・青森を出て、栃木県の短大で学び、司書の資格を取った。その後、結婚、子育て。資格を生かして公立図書館でパートで働いていた。3年目の2012年春、組織改編で、正規職員となった時の喜びは格別だった。

 しかし、半年後、初期の直腸がんが見つかる。入院して腹腔(ふくくう)鏡手術。1カ月も休めば職場復帰が可能なはずだった。上司からも「しっかり休んで」と配慮の言葉があったが、小さな組織のローテーション制で、「職場に迷惑はかけられない」。いったん辞めざるを得なかった。

 退院後、「パートで戻りたい」と申し出たが、既に代わりのスタッフが入り、無視された。「この年で、がんにかかった自分には何の価値もないのか」と落ち込んだ。同時期にがんが分かった大企業や役所勤務の知人は皆、元の職場に復帰している。陽子さんは病を明かさず、アルバイトの職を得た。「自分はぜいたくなのだろうか」。やりきれない思いが続く。

 ●子どものために

 働く世代のがん患者の多くは、仕事を続けなければ生活が立ち行かない。「子どものため、あと10年は生きなければ」と話す福岡県在住の契約職員、真美さん(46)=仮名=はシングルマザーだ。長男(22)は独立したが、次男(10)には障害があり、特別支援学級に通うために送迎が欠かせない。

 クリニックの契約の看護助手として働いていた昨年2月、膣(ちつ)がんが見つかった。医療現場だが、以前、がんになった同僚のことを思い出し、打ち明けなかった。最初は「無理しないで」と気遣われても、やがて休むたびに陰で何か言われるのか分かるからだ。

 しかし、治療のための入院が必要となり、看護師長と事務の担当者にのみ話した。契約更新時期の直前で、クビを覚悟したが「あなたは必要な人」と言ってもらえた。

 3カ月の入院の後、復帰した。当初は有給休暇を使いながら時短で働き、1カ月後には通常勤務に。仕事はベッドメーキングなどで体力を使う。放射線治療の後遺症で疲れやすく、足のしびれもあるが、一人の動きが悪ければ他のスタッフに負担がかかるため、懸命にこなしている。

 治療費は公的な「ひとり親家庭等医療費助成制度」で基本的には免除されたが、体力的にも経済的にも余裕はなく、綱渡りの生活が続く。

 「再発しても、もう治療は受けられないかもしれない」。次男が環境の変化に弱く、パニックの発作を起こすため、次に入院が必要な時にはもう高齢の親に任せられない。この先の雇用の保証もなく、不安は尽きないが、今は好きな仕事が続けられることを幸せに感じる。「患者さんに会うのが楽しみ。人と関わることが生きがいにつながります」

 ●管理職に戻れない

 がんにかかる人の数は、50歳を超えると男性が女性を上回り、50代前半から急激に増加する。会社員なら管理職に就く年代だ。埼玉県在住の久雄さん(58)=仮名=は、大手スーパーの店長で56歳だった13年に大腸がんが見つかった。同年4月に手術。4カ月の休職の後に復帰しようとした矢先、今度は肝臓への再発転移が見つかる。

 会社は、がん患者の就労に積極的に取り組んでいるとして、自治体から表彰を受けた。窓口の担当者は熱心な対応で、復帰に向けて面談を重ねた。しかし次第に抗がん剤治療の副作用が強くなり、手足の先が痛み、フルタイムでの復職は難しくなった。とはいえ事務職に正社員のポストはなかった。「別の職種も提案されたけれど、なかなか踏み切れなくて」

 休職期間中は無給で、互助会からの見舞金と健康保険の「傷病手当金」を受けた。しかし傷病手当金の支給は15年1月で終了。同3月が復帰する期限だったが、思案の末、選択定年制度を利用して退職することにした。

 退職後の家計について、年金が受けられる62歳までのシミュレーションを重ねた。退職後数カ月は雇用保険から「失業給付」を受け、さらに公的年金の「障害年金」も受給資格を得ていた。退職金で家のローンを払い、妻(59)のパート収入と、預金を切り崩して生活費に充てる。2人の娘は社会人で、同居する次女も給料の一部を家に入れてくれる。

 がんは今のところ、画像上に腫瘍が見えない「寛解」状態だが、この先どうなるかは分からない。「58歳で引退は早いと思うが、治療しながらの再就職はハードルが高い。在宅でできる仕事がないものか」と話す。病状も生活状況も違う患者それぞれに、きめ細かく対応できるような仕組みができないものか。「がん患者を安定雇用するには、企業努力だけでは限界があるのではないでしょうか」【三輪晴美】=つづく

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 ◇ひとり親家庭等医療費助成制度

 母子家庭や父子家庭の親、また親がいない児童を養育する人に対して、公的医療保険の自己負担分から一部負担金を差し引いた額を助成する制度。ただし入院時の差額ベッド代や食事代、また予防接種や健康診断などは原則、助成されない。また、限度額以上の所得がある人や生活保護受給者らは対象外となる。自治体によって多少の違いがあるため利用する際は、まず窓口に問い合わせる。

 ◇がん診断後の就労と収入の変化

 厚生労働省の研究班(代表・山内英子聖路加国際病院ブレストセンター長)が乳がん患者に対して2013〜14年度にアンケート調査を行った結果、がん診断後も以前と同じ就労状況を続けている患者は53.0%、依願退職は15.0%、転職は12.0%。以前と就労状況が変わった人のうち40.4%は年間の収入が減った。

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