2015_11
06
(Fri)22:23

自治体の胃がん検診 バリウム飲んで人工肛門になった男性!newsポストセブンより

「もう無理、耐えきれない。救急車を呼んでくれ」──顔面蒼白になった男性(62)は、小さな声で妻に告げた。下っ腹の奥を刺すような強い痛みが断続的に襲ってくる。

目も開けられず、ソファに前屈みになったまま動けない。前夜に3回もトイレに行ったが、便は出なかった。全身から噴き出る脂汗で、パジャマがぐっしょり濡れた。

 救急搬送された病院で、男性は浣腸を4回受けたが、痛みは消えない。X線撮影した結果、担当医はいった。

「バリウムが固まって大腸を圧迫し、孔が開いてしまいました。すぐに緊急手術が必要です」

 男性は前日に自治体の胃がん検診でバリウムを飲んでいたのだ──。

 2時間の手術で、孔が開いた部分を切除、人工肛門が設置された。手術後2日間、男性の意識は混濁していた。入院生活は17日間。そして、男性は、身体障害者4級の認定を受けた。

 退院後、このままでは泣き寝入りになると、男性は危機感を抱いた。そんな時、親族から「週刊ポストでバリウム検査の問題を特集していた」と聞き、筆者の事務所に相談の電話をかけてきたのである。

 筆者は、今年6月から7月にかけて本誌で3回にわたってバリウム検査(胃X線検査)の問題点を追う調査報道をレポートした。

 死亡例を含む重大事故の頻発。バリウム検査より内視鏡検査(いわゆる胃カメラ)が、胃がん発見率で2倍以上高い事実。

バリウム検査をめぐる巨額マネー、天下り、組織の癒着構造を「検診ムラ」と名付け、医療界のタブーだったその実態を初めて詳細にお伝えした。

 大きな反響を受けたことから、新たな調査を加えた単行本『バリウム検査は危ない』を上梓した。冒頭の男性からの電話は書籍の執筆中に寄せられた。

 東北新幹線の新白河駅から車で約50分、福島県の人口約7000人の静かな町に住むこの男性を訪ねた。

「去年、都内の会社を退職して、故郷の福島で自家菜園など、セカンドライフを満喫していた矢先でした。会社員時代は毎年、人間ドックで内視鏡検査でしたが、田舎町ですので、自治体のバリウム検査を本当に久しぶりに受けたんです。そうしたら、この有様ですよ」

 男性がセーターをめくると、約30cmの生々しい手術痕が現われた。左腹には、タバコの箱よりやや大きい人工肛門があった。

「半年間は人工肛門を設置したままです。こんな場所から大便を絞り出すのは、本当に変な気分ですよ。オナラも出ますしね。身体障害者の認定を受けるとは思いもよりませんでした」

翌日、自治体の担当者(検診担当課長、保健師)と検診団体(所長、診療放射線技師)が、男性の自宅を訪問してきた。男性が約30万円の医療費について自治体に尋ねると──。

検診担当課長:自己負担していただくしかない。

保健師:私たちにも予測できないことでしたし、バリウムとの因果関係がハッキリしていません……。

 手術の担当医は、診断結果に「バリウムで大腸に孔が開いた」と、明確に記載していた。男性がその資料を示そうとしたが、検診団体所長は「専門家じゃないんで」と見ようともしない。こんな会話もあった。

男性:全国レベルでは、自分と同様のケースはありますよね?

放射線技師:私どもは日本対がん協会の福島支部でして、いろんな勉強会、研究会をやっていますが、(翌日に緊急手術の例は)聞いたことがありません。

 日本対がん協会といえば、国内最大の検診グループであり、バリウム検査を重要な収入源としている。「検診ムラ」の中心的な存在だ。

 医薬品の副作用情報を収集するPMDA(独立行政法人・医薬品医療機器総合機構)に報告されたデータを独自に集計したところ、2014年度の一年間だけで、バリウム製剤で大腸などに孔が開いた「穿孔(せんこう)」は68例もあった。

「バリウム穿孔」に関する様々な論文を確認した限りでは、検査翌日に緊急手術を行なったケースが大半だ。「検査翌日の手術例は聞いたことがない」と発言するのは、責任回避を意図しているのだろうか。

 胃がん検診で身体障害者になった男性に対し、検診関係者が誰も責任を取ろうとしていないように見える。

●文/ジャーナリスト・岩澤倫彦(『バリウム検査は危ない』著者)

※週刊ポスト2015年11月13日号

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C.O.M.M.E.N.T

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