2016_03
07
(Mon)19:52

yomiDr. 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点より

下記の記事は、読売新聞 yomiDr.からの転載である。

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2016-02-22 抗がん剤治療の第一人者、腫瘍内科医の勝俣範之さんが、何かと誤解しがちながん治療情報をやさしく解説します。

腫瘍マーカーのお話


 「腫瘍マーカーの値が増えたと言われて、ショックで眠れません」

 33歳のMさんは、卵巣がんで手術をした後、定期的に採血をして、「CA19―9」という腫瘍マーカーが先月から高くなったというのです。

 コンピューター断層撮影法(CT)や陽電子放射断層撮影(PET)検査も行いましたが、画像診断では、がんは映っておらず、再発とは診断できませんでした。

しかし、主治医から、「腫瘍マーカーが異常高値を示すので、再発の可能性が高いから、抗がん剤を始めましょう」と言われたとのことです。

このような患者さんは、時々私の外来にいらっしゃいます。

 腫瘍マーカーは、採血をすることによって測れるものですが、実際に、どのようなものがあり、どれくらい有効なのかを解説してみたいと思います。

腫瘍マーカーとは
 腫瘍マーカーとは、血液中の腫瘍に関連した物質を測ることによって、がんの診断や治療効果の判定に使おうとするものです。

 がんの組織標本を使って、組織の中の物質を測って、がんの診断に使うのも広い定義からしますと、腫瘍マーカーの一つであり、バイオマーカーなどと呼ばれますが、ここでは、血液の腫瘍マーカーについてお話ししたいと思います

腫瘍マーカーの種類
 現在、使うことのできる腫瘍マーカーは、ざっと40種類以上あります。

 表に、比較的有用性が高い主な腫瘍マーカーを示します。

 腫瘍マーカーは、採取した血液を使って簡単に検査ができるのですが、がんの診断には、あくまでも補助的に用いられるものと考えてください。

現時点では、腫瘍マーカーのみでがんと確実に診断できるものでなく、画像診断の補助という位置づけになります。

 腫瘍マーカーには限界があり、マーカーが高いからといって、それだけでがんとすぐに診断できるものではないということなのです。


 【腫瘍マーカーがんの種類】

 AFP    肝臓がん、胚細胞性腫瘍

 HCG    絨毛性腫瘍、胚細胞性腫瘍

 CA125  卵巣がん

 CA19-9 消化器がんなど

 CA15-3 乳がん、胃がん、肺がん、卵巣がんなど

 CEA    消化器がん、乳がんなど

 NSE    肺小細胞がん、神経内分泌腫瘍

 PSA    前立腺がん

 SCC    扁平上皮がん

腫瘍マーカーは、がんの早期発見に使える?
 血液検査のみで、がんの早期発見、早期治療ができれば、がんの治療もかなり進歩するのでしょうが、現段階でそのような腫瘍マーカーは存在しません。

 早期発見に使える腫瘍マーカーには、大腸がんの術後患者さんのCEAがあります。

 ステージIIまたはIIIの大腸がんの手術後、定期的に3か月ごとにCEAを測定することには、再発の早期発見につながり、生存率も向上したというエビデンス(科学的証拠)があり、国際的にも推奨されています(注1)。

 また、肝硬変の患者さんに、定期的にAFPを測ることは、肝臓がんの早期発見につながり、その後の病状の経過を改善する可能性があり、推奨されています(注2)。

一般検診に有用な腫瘍マーカーはない

 では、一般市民の検診に推奨できる腫瘍マーカーはあるでしょうか? 会社の検診は、人間ドックなどで、腫瘍マーカーの項目があります。定期検査として、やっているところはさすがに少ないと思いますが、オプションとして、CEAやCA19―9、PSAなどが選択できるようになっている場合があります。

 しかし、積極的に勧められる有効な腫瘍マーカー検診はない、というのが現状です。

 医学的に、がん検診の有効性を示すためには、単に診断率を向上させるだけではいけません。最終的に、がんの死亡率を減少させることができなければ、がん検診が有効であったとは言えないのです。

 腫瘍マーカー検診の問題点としては、陽性率が極端に低いこと、見逃し例(がんがあるのに、異常なしとしてしまうこと:偽陰性)、過剰診断例(がんがないのに、異常としてしまうこと:偽陽性)が多いということです。

 消化器がんでよく使われるCEAやCA19―9は、偽陰性や偽陽性が多く、そもそも一般検診に使うことのメリットは少ないと考えられていて、一般市民に対する検診の研究は現在まで行われていません。

 卵巣がんのCA125を検診に使おうという試みは、海外でいくつか行われました。

 もっとも大規模な研究は、米国で行われたPLCOと呼ばれる研究です。

 55~74歳の78,216人の一般女性を年に1度、CA125の採血と、経膣(けいちつ)超音波検査を行う検診群と、検診を行わない非検診群とをランダムに振り分けて、長期の経過を比較しました。

結果は、検診群の方が、卵巣がんと診断された人数はやや多かった(212人対176人)ものの、統計学的有意差(意味のある差)はありませんでした。

 また、卵巣がんによる死亡数は、検診群118人、非検診群100人と、検診群のほうが、逆にやや死亡数が多い結果となりました(統計学的有意差はなし)。検診群で、8.4%(3285人)に偽陽性がありました(注3)。

 このように、CA125の一般市民に対する検診は、早期発見に関しても、治療結果により死亡率を低下させることのメリットも見いだせなかったことになります。

 前立腺がんに対するPSA検診については、年に1度のPSA検診を行うことによって死亡率をさせたという欧州の報告(注4)と、死亡率を減少させなかったという米国の報告(注5)とがあり、結果が異なっています。

 前立腺がんは、ゆっくりと進行するものが多く、また、治療にもよく反応するため、必ずしも早期発見・早期治療が、長期的な死亡率を減少させるという良い結果と結びつかないことを示しているものと思います。

 PSA検診は、過剰に診断され、過剰な治療も行われているという指摘もありますので、積極的に推奨できる検診とは言えないと思います。

 ちなみに、厚生労働省がん研究助成金「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班では、PSA検診は推奨度I(証拠不十分)としています(注6)。

治療効果の判定に使える腫瘍マーカーは?

 腫瘍マーカーのもう一つの使い道として、抗がん剤などの治療効果の判定に使うという使い方があります。

抗がん剤に効果があるかどうかは、一般的には、CTなどの画像診断などで判断されるのが原則です。

 腫瘍マーカーは、採血だけで簡単にわかるので、抗がん剤を投与している最中に、腫瘍マーカーが測られることが多いです。

 表に掲げたような腫瘍マーカーは、抗がん剤の治療中などにもよく使われるものです。ただし、これらの中で、画像診断の代わりに腫瘍マーカーのみで、効果判定をしてもよいと、ガイドラインなどでも推奨されているものは、以下のものに限られます。

 胚細胞性腫瘍のAFP

 胚細胞性腫瘍、絨毛(じゅうもう)性腫瘍のHCG

 卵巣がんのCA125

 前立腺がんのPSA

 この4つの腫瘍マーカー以外のものは、腫瘍マーカー単独での効果判定をすることができません。腫瘍マーカーが高くなった、低くなったのみで、効果があるかどうかはわからないということになります。

 腫瘍マーカーが高くなったけれど、画像診断では、がんが大きくなっていない(すなわち、偽陽性)ということはいくらでもあることなのです。

 上記の4つの腫瘍マーカー以外の腫瘍マーカーは、効果判定をする際には、あくまでも参考程度にして、画像診断でしっかりと確認をする、ということが大切です。

 4つの腫瘍マーカーの効果の判定基準も厳密にどれくらい高くなったら(低くなったら)、効果なし(効果あり)と判定するかは、それぞれ細かく決められています。

 大まかに言うと、治療前の値の2倍以上高くなったり、低くなったりしないと判定はできません。

 例えば、卵巣がんで、治療前の腫瘍マーカーのCA125値が、100であったものが、抗がん剤治療後に120になったとします。

 患者さんは、120になると、「20もマーカー値が増えた。どうしよう」などとつい考えてしまうものですが、この時点では効果判定ができません。効果ありとも、効果なしとも判定できないということになります。

腫瘍マーカーで一喜一憂しないこと

 このように腫瘍マーカーとは、採血で簡単に数字がわかってしまうので、患者さんにとってはわかりやすい検査とは言えますが、これまで述べてきたように、安易に数字だけを信じてしまわないようにしてほしいです。

 冒頭のMさんの例は、卵巣がんの術後で、CA19―9が上昇してきたということですが、画像診断ではがんの再発は認められませんでした。

 当院でも再検査をしましたが、卵巣がんで有用性の高いCA125は正常値であり、CA19―9が高いのは偽陽性と考えられます。抗がん剤はせず、経過観察としていますが、1年後の現在までCA19―9は高値を持続していますが、再発は認められていません。

 腫瘍マーカーは日常的によく使われることが多いのですが、有効な腫瘍マーカーは、多くはありません。

もっと医学が進歩して、画像診断をしなくても、がんの診断ができるようになってほしいと思いますし、我々の夢でもあります。

採血だけでがんを診断するという研究は、現在でも進められていますが、今後の研究に期待したいものです。

 現在の腫瘍マーカーは、有効性は限られています。検査の数字にとらわれないで、一喜一憂しないことが大切と思います。

参考文献

1.Locker GY, Hamilton S, Harris J, et al. ASCO 2006 update of recommendations for the use of tumor markers in gastrointestinal cancer. J Clin Oncol 2006;24:5313-27.

2.日本肝臓学会. 肝癌診療ガイドライン 2013年版.

3.Buys SS, Partridge E, Black A, et al. Effect of screening on ovarian cancer mortality: the Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Randomized Controlled Trial. JAMA 2011;305:2295-303.

4.Schroder FH, Hugosson J, Roobol MJ, et al. Screening and prostate cancer mortality: results of the European Randomised Study of Screening for Prostate Cancer (ERSPC) at 13 years of follow-up. Lancet 2014;384:2027-35.

5.Andriole GL, Crawford ED, Grubb RL, 3rd, et al. Mortality results from a randomized prostate-cancer screening trial. N Engl J Med 2009;360:1310-9.

6.有効性評価に基づく前立腺がん検診ガイドライン. 2008.



C.O.M.M.E.N.T

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