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(Fri)21:26

がん患者の障害年金を知っていますか?ヨミドクター勝俣範之のコラムから

次の記事の中に、当会の名前が入っている。長い、コラム(文章)ではあるが、是非、ご覧頂ければ幸いである。

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がん診療の誤解を解く 腫瘍内科医Dr.勝俣の視点

2016年4月18日

がんの障害年金を知っていますか?

 52歳のKさんは、検診での異常をきっかけに肺がんと診断されました。肺がんが、胸膜に転移し、胸水がたまる状況となり、治療を受けています。現在は、ニボルマブという分子標的薬の治療で、病状は比較的安定していますが、胸膜転移により、息切れやせきが完全にはおさまっていない状況です。

 Kさんは、事務のお仕事をされていますが、最近では、1日、仕事を続けるのが、だんだんきつくなってきたようです。

 「お仕事は、無理されなくてもよいと思いますよ」

 と言うと

 「高額療養費制度で、毎月の治療費は4万円くらいで済んでいるのですが、次第に負担になってきて……、治療費は何とか工面しているが、夫だけに頼るわけにはいかないんです。娘が大学を卒業するまで、がんばらなくちゃと思って、何とか仕事を続けたいんです」と言うのです。

高額ながん治療費

 最近のがんの治療はどんどん高額になってきています。ニボルマブは、最近、肺がんに承認された分子標的薬で、1か月の治療費が約290万円もかかります。3割負担でも、1か月89万円と超高額治療です。

 我が国では、高額療養費制度があり、自己負担限度額が一定以上を超えると支払いを免除される良い制度があります。それでも、毎月、数万円を支払うのが長期間になると負担は大変になってきます。

 抗がん剤により、がんと長く共存ができる時代になってきた反面、がん患者さんは、毎月かかる高額な治療費を払い続けられるだろうか?という新たな悩みをかかえるようになってきたということも事実です。

 Kさんのように、治療費のことを患者さんから相談を受けることは、そう多いことではありません。ただ、実際には、患者さんは、お金のことでも悩んでいる場合が少なくありません。

 がんになった患者さんを支える制度には、高額療養費制度のほか、傷病手当金、個人の生命保険など、さまざまなものがあります(詳しくは、NPO法人がんと暮らしを考える会のホームページ(注1)などを参照してください)。

 この中でも、障害年金制度は、ほとんど知られていません。また、実際に受給される方が極めて少ないという現状があります。

がん患者さんでももらえる障害年金制度とは?

 年金というと、60歳になったら、もらえる老齢年金のことが思い浮かぶと思いますが、障害年金は、老齢年金、遺族年金と並ぶ公的年金の一つです(注2)。

 がん患者さんも、障害年金をもらえることをぜひ知っておいてほしいと思います。

 障害年金とは、簡単に言うと、重病になり、働くことが、または、日常生活が困難になった人が対象となる年金制度です。

 がん以外にも、心疾患、脳疾患などの疾患でも適応になります。高齢者が対象というよりは、むしろ、若い方のための年金制度です。

 進行がんになり、老齢年金をもらえない可能性のある患者さんが、前倒しして、年金を受給できるという制度と言ってよいと思います。そういった意味では、進行がん患者さんは皆受給する権利があると思います。

 がん患者さんに障害年金が受給できるということは、実は、私も最近になるまで知りませんでした。あるがん患者会の方に、教えていただいたのです。

 年金というと、引退するまで働いた後、老後を楽に過ごすためだけのものと思っていました。長期掛け金という形で、かなりの高額が毎月給料から天引きされていますが、これが年金だということも私は知りませんでした。

 がんの発生頻度は、男性ですと、50歳を過ぎるとぐんと増えます。私の大学時代の同級生も、がんで既に3人亡くなりました。私ももう50歳を超えましたので、気をつけなければなりません。

 50歳を過ぎても、年金をもらえる年までがんばろうと、疲れてきた体にむち打ってあくせくと働いてきた矢先にがんと診断されることが多いのです。

 そのような状況で、がんになり、高額な治療費を支払い、年金も受けられず、亡くなってしまうこともあるのです。

 そのために、障害年金というのは、とても素晴らしい制度と思います。

医療者のあいだでも知られていない障害年金

 実際に、障害年金を受けるのには、医師の診断書が必要ですが、医師がよく理解していないことも多いというのが現状です。

 実際に、がん患者さんが医師に診断書を書いてほしいとお願いしたが、「書けない」と断られたケースをよく耳にします。

 よく誤解されるのが、身体障害者認定と混同されることです。

 身体障害者認定は、肢体不自由の方や、視覚聴覚障害の方などに対する認定制度で、認定されると、身体障害者手帳を受け取ることができ、各種サービスを受けることができます。身体障害者の診断書を書くのは、指定医しかできません。

 病院で多くの場合は、指定医となっているのは、脳外科医や整形外科医、眼科医などです。

 がん専門医は、障害年金の診断書を書いたことがない場合が多いので、身体障害者の診断書と勘違いしていて、「書けません」という医師が多い。しかし、障害年金の診断書は医師なら誰でも書けるのです。きちんとした診断書がなければ、もちろん障害年金をもらうことができません。患者さんが、障害年金の診断書を希望したら、医師は、丁寧に書いてほしいと思います。

 私も最初に「障害年金」の話を聞いたときには、この身体障害者認定のことと勘違いし、自分には診断書が書けないのではと思ってしまいました。

 進行がん患者さんには、病院の方から障害年金のことが紹介されるような仕組みになっていればよいのですが、病院のソーシャルワーカーさんも理解していることがそう多くはないという残念な現状があります。

障害年金を受けるには?

 障害年金を具体的に申請する際には、年金事務所に直接相談するのがよいのですが、年金を実際申請、給付されるまでにはかなり煩雑な手続きが必要となります。

 社会保険労務士(社労士)という社会保険に関する相談・指導を行う職業があるのをご存じでしょうか。障害年金を受ける際に、この社会労務士さんが、申請・診断書請求などの代行をしてくれます。

 個人で、年金事務所に相談するのもよいのですが、私の患者さんで、年金事務所に直接相談に行ったら

 「どこで聞いたのですか?」

 と問い詰めるような対応をされ、心が折れそうになったという人がいました。

 また、がんが進行して具合が悪くなっている状況で、このような手続きをするのも大変です。

 このような場合、お近くの社会保険労務士事務所に相談してみるのもよいと思います。また、社労士さんがつくっている障害年金支援ネットワーク(注3)も参考になります。
がんの障害年金について知っていてほしいこと
 

障害年金制度について教えていただいたのは、「がん患者会シャローム」という患者会の方からなのですが、シャロームさんに許可を得て、がん患者の障害年金について、知っていてほしいこと(注4)を転載させていただきます。 

① 申請は、がん発症から1年半経過していなければならない(そうでない特別な場合もあるが、それについての詳しい説明は省く)。

② がんの再発・転移者であり、根治が困難な状態であること(再発・転移をしていない場合でも受給される場合はあるが、困難である。また、決して余命半年でなくても受給されることは言うまでもない)。もし、受給者が根治した場合は、支給は取り消される。 

③ 厚生年金に加入している人は、障害認定3級から支給されるが、国民年金加入者は、2級からである(簡単に言うと、厚生年金加入者の方が、国民年金加入者より支給されやすい)。 

④ 一方、厚生年金加入者は、日本年金機構(旧社会保険庁)で審査されるために、認定までに約半年くらいかかるが、国民年金加入者は、年金事務所(旧社会保険事務所)で審査されるので、申請から3か月後くらいから支給される。 

⑤ がんになって退職をし、国民年金加入者であっても、発症時に厚生年金に加入していれば、厚生年金加入者として申請出来る。

⑥ 老齢年金を一度でも受けていた場合は、かなり受給が困難であること(当会では、2人申請を試みたが、2人とも認定されることはなかった)。 

⑦ このがん患者の障害年金は、身体障害者の年金とは別物であり、認定医でないと診断書が書けないということはないし、障害者手帳も給付されない。もちろん、申請には不要である。 

⑧ このがん患者の障害年金は、遺族が申請することも出来る。ただし、受給できる期間は、5年間と限られている。

 精神・知的障害に関する障害年金のデータですが、障害厚生年金が日本年金機構本部1か所で全国の審査決定をされているのに対し、国民年金加入者が対象の障害基礎年金は各都道府県の事務センターで審査決定されているため、認定基準が統一されておらず、地域格差があることが指摘されています(注5)。

 年金は、国民が将来のために備え、積み立てている大切なお金です。

 適切な形で、適切な人に使われてほしいと思います。障害年金は、国民が誰でも受けられるきちんとした公的年金ですので、皆が知っていてほしい情報と思います。

 がんになって、お金のことまで心配をしなければならない時代となりました。

 高額な抗がん剤の費用は、学会でも、新たな副作用の一つとして考えるべきでは?と指摘(注6)されているくらいです。

 がんの障害年金制度は、ぜひ知っておいてほしい情報として書かせていただきました。

 参考

 1.がんと暮らしを考える会
 
http://www.gankura.org

 2.政府広報オンライン. 障害年金の制度をご存じですか? がんや糖尿病、心疾患など内部疾患の方も対象です
 
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201201/2.html

 3.障害年金支援ネットワーク
 
http://www.syougai-nenkin.or.jp

 4.がん患者会シャローム代表個人ブログ
 
http://sugitocancer.blog87.fc2.com/blog-entry-1916.html

 5.厚生労働省 精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会
 
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-nenkin.html?tid=246772

 6.Khera N. Reporting and grading financial toxicity. J Clin Oncol. 2014;32(29):3337-8.

C.O.M.M.E.N.T

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